第5章 籠の中の鳥
赤司は、心配そうに柚姫に問い掛ける。柚姫は、苦笑の表情を浮かべていた。ふいに赤司が柚姫に向かって手を伸ばし、頬を優しく撫でる。
赤司の行動に不思議に思ってしまう柚姫。
「征十朗?…どうしたの?」
「いや…。何でもないよ。ただ…無性に触りたかっただけだ…。」
柚姫の言葉にハッとしたのか赤司は、そんな事を言っただけで、すぐに手を引っ込める。その様子から柚姫は、クスと僅かに笑うばかりだ。
「何を笑っている?」
赤司が柚姫に質問をすれば、柚姫はううん…というばかりに首を左右に振る。柚姫は、赤司の右手を優しく握ると微笑んで静かに言う。
「…征十朗の手…とても温かい。生きている証拠だよ……。ありがとう…。」
柚姫の言葉に、赤司もふっ…と僅かに笑って空いている左手でもう一度柚姫の頬を撫でる。
「当たり前だ。俺だって生きてる。お前だって生きてる……。こんなにも温かいのだから…。」
「くすぐったい…。」
柚姫は、それだけ呟いてから赤司の手からゆっくりと離れる。ジャラ…と鎖同士がぶつかり合い音がなるが、それを気にしないように歩き出す柚姫。
赤司に背を向けて城へと歩いている柚姫の背中はとても寂しそうな雰囲気を放っていた。ふと、足を止める柚姫は、振り向いて赤司に向かって言った。
「征十朗、また…明日ね?おやすみ。」
「あぁ、おやすみ…。」
赤司も柚姫に返事をした。赤司は、完全に柚姫が見えなくなるまでその姿をずっと見ていた。