第5章 籠の中の鳥
赤司の声で、後ろを振り返る柚姫の表情は、どこか寂しそうな顔をしていた。だが、どこかそれが綺麗に見えてしまった赤司。
「征十朗……だっけ…。特に何でもないよ。何となく外に出てみたかっただけ…。」
柚姫は、赤司にそんな事を言いながら再び夜空を見上げる。赤司は、僅かに笑い柚姫の隣に立つ。この世界は、赤司達の世界は違うのに、夜空は全く同じだ。
「1つ聞いていいかな?前の私ってどんな奴だった?」
柚姫からの質問に僅かに目を見開く赤司だが、すぐに元の表情に戻す。
「今のお前と変わらないよ。責任感が強く誰かを守ろうという意志が強い。誰からも尊敬される人だよ。」
赤司は、微笑みながら柚姫に語り掛ける。その赤司の言葉を聞いた柚姫は驚きの表情を見せていたが、やがては安心したのか頬が僅かに緩む。
だが、それも一瞬だった。遠くの方からグルルル…という声が聞こえてきた。正確には、鳴き声というべきなのだろう。その方向を見れば突然変異の狼がいた。
鋭い牙を見せ付けるように、大きく口を開いている。腹を空かせているのか、その口から大量の唾液が流れている。
柚姫は、鞘から刀を抜き取り構える。柚姫もだけではない赤司もそうだ。赤司も鞘から刀を抜き取る。
「……私が倒すから征十朗は、城に戻って。」
「柚姫を置いて行くわけないだろう。それに、どうやら相手は一匹だけではないようだしね…。」
そうよく見れば、一匹だけではなかった。後ろの方から他の突然変異の狼達が来ていた。ざっくりと言えば、10匹以上はいるであろう…。