第6章 恋の策謀事件(上)
「でもこの裁判で1つだけおかしなことがあるの。それはなんだと思う?」
ここでアフロディティが思いもよらずキューピッドに質問してきた。
「えっと・・・なんだろう?全然わからないや。」
「テティスとペーレウスの結婚を祝う宴席には全ての神が招かれたけれど、不和の女神エリスだけは招かれなかったのよ。変だと思わない?私もこの事についてお父様に聞いてみたけれど、噂で聞いたから本当かどうかさっぱりわからないと言っていたわ。それでエリスは怒って宴席に乗り込み、『最も美しい女神にあたえる』として黄金の林檎を投げ入れたのよ。この林檎をめぐってヘーラー、アテーナーが争ったのね。私も争いに加わったみたいだけど覚えていないわ。そして、仲裁するために『イリオス王プリアモスの息子で、現在はイデ山で羊飼いをしているパリス(アレクサンドロス)に判定させる』こととしたのよ。これがパリスの審判というものよ。私もお父様から聞いて驚いてしまったのよ。」
キューピッドは”大変な裁判だったんだね”と促した。
そしてアフロディティは話を続けた。
「この時、女神たちは様々な賄賂による約束をしてパリスを買収しようとしたわ。ヘーラーは『アシアの君主の座』、アテーナーは『戦いにおける勝利』を与えることを申し出たの。でも、結局『最も美しい女を与える』とした私が勝ちを得たんですって。『最も美しい女』とはすでにスパルタ王メネラーオスの妻となっていたヘレネーのことで、これがイリオス攻め(トロイア戦争)の原因となったわ。トロイア戦争の間にパリスを憎むヘーラーとアテーナーとはギリシア側に肩入れしたの。」
アフロディティは話が終わると”そろそろ寮に戻りましょう”とキューピッドに告げた。
「そうだね。それにしてもややこしい裁判だな。それと女の争いって怖いっていうか・・・残酷だということがいかによくわかったね。」
キューピッドもアフロディティに続き屋上を後にした。