第6章 恋の策謀事件(上)
この日の授業が終わりキューピッドはアフロディティーと校舎の屋上へと向った。螺旋階段をひたすら昇り、壁を必死に伝い着いた先は学校の敷地内を見渡せるほどの絶景だった。
「僕らの学校にこんな所があったなんて知らなかったな。」
キューピッドは驚きのあまり腰を抜かしそうになった。
「こんなところで腰を抜かしてたら話にならないでしょう。」
アフロディティーはクスリと笑って屋上に手すりへと歩み寄った。そして手すりに手をかけてキューピッドもこちらに来るように促した。
「お父様が言ってたのよね。私は美において誇り高く、パリスによる三美神の審判で、最高の美神として選ばれているんだって。全然知らなかったわ。」
アフロディティーは遠くの景色を見つめて言った。
「そうなんだ。それでパリスによる三美神の審判って何?」
キューピッドが彼女の言葉に聞き返した。
「ああ、そのことね。まずパリスって言うのはトロイアの王子様よ。小さい頃だから覚えてないんだけど写真を見る限りじゃ美少年ってところかしら?でも私のタイプじゃないわね。」
「ふーん。でも貴族の方の目に止まったなんてすごいなあ。それで?」
2人は楽しそうに話を続けた。
「それでパリスの審判っていうのはね、トロイア戦争の発端とされる事件だったらしいわ。」
「トロイア戦争?」
キューピッドが青い目をギュウと収縮させて驚いた。
「うん。トロイア戦争は有名だから知ってるでしょう?小アジアのトロイアに対して、ミュケーナイを中心とするアカイア人の遠征軍が行ったギリシアの戦争なんですって。詳しいことはわからないけれどね。」
アフロディティーは微笑んで言った。
「ああ、なんとなく分かった気がするよ。」
キューピッドは頷いた。
「それでパリスの審判のことだけど選ばれたのは神々の女王ヘーラー、知恵の女神アテーナー、そして私よ。これは天界での抜群の三美神のうちで誰が最も美しいかを判定させられたものなの。」
「なんか、別にそんなの決めなくたっていい気がするんだけどなあ。」
キューピッドはすっかり彼女の魅力に取り付かれていた。それはこの学校に入学して出会った時からだった。そしてやっと告白にOKをもらい今に至るのだ。