第18章 まるで少女漫画みたいな【二口堅治】
俺はいてもたってもいられず、ちょっと貸せ、と美咲から携帯を奪う。
ぱ、と向けられた視線は、嫌がるものではない。大丈夫?と心配する目だ。
俺は口元だけで笑ってみせると、
「あー、すみません。お電話代わりました」
『…君は誰ですか』
部長と言うからおじさんなのかと思ったが、予想に反して若い男の声だった。
「あ、二口堅治という者ですがー」
『…新海さんとはどういうご関係でしょう』
名字呼びに内心ホッとする。
心配そうな美咲を横目に、俺は平然と答える。
「あ、美咲と俺ですか?そうですねー……交際相手といえば理解していただけます?」
あえて名前呼びを誇張して言うと、その言葉に電話の向こうと目の前でギョッとされる。
今にも大声で文句を言いそうな美咲に、しーっとジェスチャーで示す。
すると、美咲は何か言いたげな顔でぐっと拳を握った。
いい子だ。そのままでいろよ。
部長さんとやらは急に歯切れが悪くなったように、それでもしつこく食い下がる。
『新海さんは、お付き合いしてる方はいない、と……』
「あー、うちのがバカですみません、女友達がどうのって言いたがらないんすよ」
『で、でも、』
「ったく…急に飲み会が入ったけど大丈夫!なんて言われてたんですけど…。あいつ仮病使ったんですね。スミマセン、うちのがご迷惑おかけして」
『あの!新海さんは、』
「あの〜、察してくれません?こちらは久々のデートなんですけど。そういう事情とか色々汲んでくださいよ」
「け、堅治!」
とうとう顔を真っ赤にさせた美咲が叫んだ。
ナイスタイミング。
電話越しにもそれが聞こえたらしく、美咲の名前呼びに相手もとうとう折れたようだ。
『……すみません、失礼します』
「いえ。…では」