第18章 まるで少女漫画みたいな【二口堅治】
◇
「いえ。…では」
二口は通話ボタンをタップすると、はああ…と大きく息をついた。
ちょっとぐらいは緊張してたのかもしれない。
"交際相手といえば理解していただけます?"
部長を追い払うための出まかせだとは分かっていても、びっくりした。かなり焦った。
ーーこの展開、まるでいつか読んだ少女漫画みたい。
6年ぶりの再会ののち、彼氏のフリをして上司を追い払ってもらうなんて。
それに出てくるのに似た、キザなセリフを二口は言ったんだと思うと、ふふっと笑いがこぼれる。
ああ、バカだ。
「…なんだよ、急に吹き出して」
二口は不満げにこちらを軽く睨んだ。
通りの明かりで逆光だが、ほんのり顔が赤いのが分かる。
「ううん、堅治のセリフが少女漫画みたいにキザだったなーって」
「…るせーな」
「ちょっとだけかっこよかったよ」
ちょーっとだけね?と笑うと、顔を背けていた二口がこちらに向き直した。
真面目な顔。6年前とおんなじ。
二口の目は凄く綺麗だ。
意地悪だし、口も悪いけど、目はいつも真っ直ぐで。
バレーの時も、敵を見る目は鋭く、相手を射抜くよう。
今も、そう、私を真っ直ぐ捉えて逃がさない。
「…さっきの話の続き、していいか」
私は頷いた。
「私、ちゃんと覚えてるよ」
「当たり前だバカ」
「堅治が忘れてたらどうしよって思ってた」
「自分の発言に責任ぐらい持つわ」
「ここまで言っといて無理って言われても、私引き下がらないよ?」
「上等、受けて立ってやるよ」
ふん、と二口が鼻で笑って、口角をきゅっと上げた。
あの少女漫画の告白する場面ってこんなんだったっけ?確か、もっと甘ったるいシーンだったような。
でも、きっと結末は一緒。
「好きだ、バカ」
「…当たり前!」
「まるで少女漫画みたいな」おわり