第16章 似た者同士【田中龍之介】
しばらく静寂が訪れた。
いや、正確には鳴き始めた蝉の声、遠くの吹奏楽部の演奏、誰かがペタペタと廊下を駆ける音…
さまざまな雑音の中、教室の中はいやに静かだった。
「…美咲」
「ん?」
「…なんでもねぇ…」
「…龍」
「なんだ?」
「…いや、なんでもない」
じっとしていられなくなった田中は、ガバッと上体を起こして天井を仰いだ。
(…暑い)
吹き出すように汗が流れる。夏本番も間近なのだと実感させられる。
隣に目線をやると、新海は腕に顎を乗せて、気怠げに瞼を下ろしていた。新海の肌もうっすら汗ばんでいる。
視線を感じて、新海もちらりと横を見やった。
目が合い、2人の間に妙な間が流れる。
そして、最初に口を開いたのは田中だった。
「美咲って潔子さんが好きだよな?」
「え?あ、うん」
「一応聞いておくが…恋愛的な意味でか?」
「…えっと、さすがにそういう趣味はないわ」
「だ、だよな。うん、うん」
若干焦りながら、田中は頷く。自分が言ったことに、自分で納得させているように見える。
新海の頭上には、はてなマークが浮かんだ。
(暑さでとうとう頭までやられちゃってる?)
新海は坊主頭を見て、首を捻った。そして少し考えたあとに、口を開く。
「いや、潔子さんはなんというか…女神というか」
「ああ」
「唯一神というか」
「おお、その通りだ」
「私が男だったとしても恋愛ではないね。畏れ多いわ」
「俺だってそうだ」
「でしょ?」
2人は顔を見合わせると、お互い噴き出すように笑い出した。