第14章 髪を切る理由【岩泉一】
「なぁなぁ、新海ってアイドルのあいつに似てないか?」
えーと…あれだ、あいつ。とクラスメイトは一人の名前を挙げる。
アイドルにさほど興味のない俺は、そう言われても首を捻るしかない。
「あ〜、確かに。髪切ってからますます似てるかも」
「だろ?なぁ岩泉」
「いや、だろって言われても…誰だ、それ」
「おいおい、この前お前言ってたろ、『この中ではこれが一番いいんじゃねぇの』って」
(ああ、確かにそんなことを言ったような…気もする)
記憶を遡る。
アイドル雑誌を広げる某友人に、どれが一番可愛いかなどと言われ、適当に1人を指した気がする。
それも顔で判別したわけではなく、髪が短いというだけで選んだ。ちょうど、今の美咲ぐらいの長さだったような。
まぁ、髪が長いとみんな同じ顔に見えるから、という、しょうもない理由だったのだが。
「…あ、新海」
俺が気付くよりも早く、友人が美咲に声をかけた。
「お前さ〜、アイドルのあいつに似てるよな!」
「え、本当?」
驚きながらも嬉しそうに目を細める。
そして、その目が俺を捉えた。
は、と小さく息を飲んだのが分かった。
目線を泳がせて、ちらりと俺の方を見る。そして取り繕うように笑った。
「岩ちゃんも似てるって思う?」
「…まぁ、ちょっと似てんのかもな」
やった、と小さく言うのが聞こえた。
なんで『やった』なんだ?
と、尋ねる間も無く、授業始めのチャイムが鳴った。
その答えを、俺は思ったよりも早く知ることになる。