第12章 リカバリー【木兎光太郎】
練習試合は使い物にならなくなった木兎を抱えていても勝った。
そして休憩が入った今、私には重大な任務がある。
大きく息をついて、シャキッと背筋を伸ばし、私は笑顔を作った。
そして、
「木兎!」
「…美咲〜…」
「はいはいお疲れ様、はちみつレモン」
鉛よりもどよーんと重そうな空気を背負った木兎の口に、輪切りのはちみつレモンを突っ込む。
「…おいしい…」
「なら良かった良かった」
「うう…美咲〜」
バッ!と185cmの図体が私の上にのしかかる。
所謂、"抱きつかれている"という状態だ。
ここからは見えないけれど、他校の人たちがザワザワとするのが聞こえる。公開処刑ってやつか。
「俺もう次の試合は出ない…!」
出ました。
しょぼくれモード全開の木兎。
いつもなら試合中盤に出てくるが、稀にラストの一本で出没することがある。
試合中盤なら、赤葦が頃合いを見計らって弱モードになった時に重要な一本を上げてどうにかしている。
が、ラスト一本となるとそのタイミングを作ることができず、持ち越し延長となってしまう。
それでは本当に使い物にならなくなってしまうので、その時のリカバリー要員が私だ。
「今日調子良かったじゃん」
「そんなことない…」
「中盤のあのスパイク、すごいインコース入っててすごかったよ?」
「うう〜」
「サーブもいいところ入ってた」
「でも…」
最近リカバリーにかかる時間が長くなっているような。気のせいか。
ため息を飲み込んで、私は広い背中をポンポンとする。
「ほら、エースじゃないとあんな怖いボール打てないでしょ?ね、木兎は強いよ」
剛毛な髪の毛がチクチク頬に当たってちょっと痛いなー、とか、重たい、とかそういうのは心に留めておく。
さぁ、元に戻ってよ、うちのエースくん。