第12章 リカバリー【木兎光太郎】
「ヘイヘイヘーイ!今のスパイク見た?!超いいコース入ったよね?!まぐれだけど!」
目をキラキラさせて飛び跳ねる木兎。
赤葦は面倒くさそうにハイハイソウデスネと軽くあしらう。赤葦も可哀想に、木兎の扱いはすっかり慣れたものだ。
他校との練習試合。
現在24-16で木兎たちはマッチポイントだ。
しかし、記録を取りながら、マネージャー・美咲は一抹の不安を感じていた。
「しょぼくれモードが今日1日まだ発動していない…」
監督も眉間に皺を寄せながら軽く苦笑い。
今日の木兎は調子が良すぎた。
もちろん実力があるのだから、そこまでおかしなことではないのかもしれない。
けれど、今日は本当に小さなミスすら見受けられない。完璧すぎるプレー。
このまま何も起こらなかったら問題はない。
そう、考えるべきは、この後何かが起こった場合。
「何事もありませんように…」
良くも悪くもマッチポイント。
次のラリーの結果で、変わる。
こちらのサービスが入った。運悪くリベロのところにボールが落ちてしまう。
トスが上がり、こちらのコートに鋭いスパイクが落とされるが、小見の安定したレシーブでボールがふわりと宙に浮いた。
「ラスト寄越せぇえ!!」
木兎が目を輝かせてトスを求める。
これは赤葦も木兎に上げざるをえない状況。今頃彼の脳みそは取捨選択をコンマ数秒で行っているんだろう。
「木兎さん」
赤葦の正確なトスが上がった。
木兎のしなやかな脚の筋肉が、ガタイの良い身体を中に浮かせる。
腕がしなるようにボールを追ってーー
ーーダンッ
ボールが、コートに落ちた。
そして審判がピッとホイッスルを鳴らす。
「これは…」
ボールが転がったのは、
「ブロックでしょうか…」
「…いや、今のはスパイクミスだな」
こちら側だった。
味方コートに"あ…"という微妙な空気が流れる。
赤葦がこちらを振り向いた。
そして、ぺこりと頭を下げる。
私は苦笑いをするしかなかった。