第12章 リカバリー【木兎光太郎】
「ほら、次の試合。みんな待ってるから。ね?エース」
すると、木兎はまたうーっと唸った。
でも、これは回復の合図。
いきなり、バッと木兎は勢い良く仰け反った。
「ダアアッ!俺!梟谷のエース!」
「うんうん」
「美咲!俺行ってくる!」
「はいはい、いってらっしゃい」
よっしゃあー、次も勝ってやる!ヘイヘイヘーイ!と、さっきまでのしょぼくれ具合はどこへやら。
意気揚々とコートの方へ歩いて行った。
「ふーっ…」
「ありがとうございます、美咲先輩」
いつの間にか近くに来ていた赤葦は、律儀に小さく頭を下げた。
「いやいや。あれで回復するんだから安いもんだよ」
私は手をヒラヒラさせて笑った。
「…本当に先輩たちって付き合ってないんですか?」
「なんで疑われてるのかな…」
「パーソナルスペースが狭い、と言うにはあまりに近過ぎるなって思っただけです」
あはは、返す言葉もない。
私だって最初から平気だったわけじゃない。いや、今も平気じゃない。
「おーい、あーかーあーしー!次の試合行くぞ!」
すっかり元どおりの木兎。
誰のせいでこうなったと思ってるんですか…と小さく吐き捨てる赤葦。
この子も苦労するなぁ、と私は失笑した。
「それじゃ、いってきます」と赤葦はコートの方へ足を踏み出す。
「…あ、そうだ」
赤葦が一度立ち止まって、こちらを振り向いて、
「あれ、3割方わざとですよ」
そんな言葉を残し、コートへ赴いていったのだった。
「わざとって何がよ……」
木兎に触れた部分が、急に熱く火照りだした。
『リカバリー』おわり