第1章 青春の終わり、そして卒業【澤村大地】
「俺…さ、」
「青春だったなぁ」
「…は?」
「私、ちゃんと女の子だったんだなぁって」
何言ってるんだよ、お前は最初から女の子だろ。
照れてる?小さな声で大地が言った。
大地の目にも、私はちゃんと女の子として映ってたのかな。
「ねぇ知ってた?私、嘘泣き出来たんだよ」
「…」
「大地、私が泣くとよく胸貸してくれたじゃん。それから頭ポンポンって。慣れない手つきで」
「…そりゃ慣れてないよ、誰かの頭撫でるなんてさ」
「それがね、嬉しくて。私、本当は涙なんて吹っ飛んでたのに、頑張って泣いてたんだ。私、女優になれるかも」
あぁ、でも無理か。私、大地以外で嘘泣きなんて出来ないや。
なんて笑ってると、大地はゆっくり歩いていたのを、ふとやめた。
次こそ、やめろって言うのかな。大地はさっきから笑わないし、ずっと静かだ。おんぶされてるから、顔が見えない。大地の顔が見たいなと思って、背中に飛び乗ったのを後悔した。
「…ずっと好きだった。美咲が好きだ」
さわさわと揺れていた音が止んだ。風が止まったからなのか。
けれど私の肩まで伸ばした髪は小さくなびいている。風が止まったのではなかった。
私たちの周りに流れる時間が止まった。
自分の心臓の音が聞こえるぐらいに、周りの音が消えて静かになった。
だから、と大地が言う。
「あんまり自惚れそうになることを言わないでくれ…」