第8章 Annoying!!【及川徹】
「さぁまずはこれを着てみよう!」
と差し出されたのは、レース生地の真っ白なワンピース。
いやいやいや、と私は押し返した。
「丈短すぎ」
「何言ってんのさ〜、短いのがいいんじゃないか。はい、店員さんすみませーん!」
まったく聞く耳を持たない。人の話を聞く気がないぞ、こいつ!
店の奥から出てきた、the女の子!な店員さんが異様にニコニコしながら、私を試着室に連行する。
「はーい、じゃあ待ってるから着替えてね?それとも俺が着替えさせたほうがいい?」
「…自分で着替えます…」
さっきもだけど、半強制的に及川の言いなりになっている私。与えられた選択肢に逃げ道がない。助けて。
仕方なしに私はワンピースに袖を通す。
「う、うわぁ…」
鏡に映った自分の姿を見て、つい情けない声が出た。
ウエストキープのおかげで、トップのラインが浮き出て恥ずかしい。
なにより脚が丸出しだ。背の高さを誇張するようで本当に嫌だ。コンプレックスの塊を剥き出しにするなんて。
「おっ、いいじゃーん」
「なっ?!」
カーテンからニュッと顔を出している及川にびっくりして飛び上がる。
「ふーむ…想定外だった」
「え?」
「それもいいけど却下。よし、ちょっと待っててね〜」
シャッとカーテンを閉じ、ここから離れていく気配。
想定外って何?あまりに似合わなすぎた?いや、知ってたけど。
数分して再びカーテンが開く。
「じゃ、これよろしく〜」
「は、はぁ」
渡されたのは白のゆるっとしたサマーニットに、ネイビーに白い花柄のミニスカート。
着てみると意外にトップスが短い。
世に言う脚長効果、とかいうやつだろうけど、余計なお世話というか。
「…うん、それがいいや」
「ちょ?!」
私は焦り気味で振り向いた。
「着替え終わったって言ってからにして!」
「え?なんで?」
「まだ途中かもしれなかったじゃない!」
「別にいいんじゃ」
「良くない」
「被せ気味に来るね…」
及川はやれやれと肩をすくめる。いや、この話の流れで君がそうするのはおかしくないか?