第8章 Annoying!!【及川徹】
「あの、注目浴びるの嫌だからどっか行ってくれません?」
「イケメンでごめんね?」
「さよなら」
「ちょっちょっ待って!ごめんなさいストップ!」
手首を掴まれて、振りほどこうにも普段ボールを操る逞しい手はがっちりとほどけない。
早く離れたい。その一心で、私はぎこちなく笑顔を作る。
「…何かご用で?」
「すごい気を遣ってくるね…」
「帰ります」
「あーあー用件あります!行かないで!」
ああっ、いちいち騒がないでくれ…!
周りの目線が集まってる気がして仕方ない。
「用件は手短にお願いします」
「美咲ちゃんの洋服買いに行こう」
「…は?」
予想外というか、意味のわからない用件に思考が一時ストップ。
私の?服を買いに行く?
「それは…一緒にという意味じゃないよね?」
「え?一緒に行こうよ?」
「ごめん無理さようなら」
「即拒否?!」
だって!あなたと一緒にいたら嫌でも私にも視線が向くでしょ!そんなの耐えられない!
それに自分の服ぐらい自分で買うわ!なんで及川と一緒の必要があるの!
「買い物ぐらい一人でさせて!」
「あのさ、その服、似合わないよ?」
「…うるさい」
黒の太めのデニムに、ただのTシャツ、パーカー。無難に無難を重ねた無難スタイル。
目立たない、街を出歩くのに格好の服装なのに。
「俺がコーディネートしてあげる」
「嫌だって言って…って、えっちょっ、ちょっと、」
「さぁ一軒目に向かうぞー!」
「話を聞け!」
「いいのあるかな〜」
「このクソ川!手首を離せ!」
「はいはい、手をつないでほしいんでしょ?もー、しょーがないなー」
「ちーーがーーうーー!!!」
今日は人生最悪の日かもしれない。