第8章 Annoying!!【及川徹】
「…あっれー?美咲ちゃんじゃん!」
背中からかけられた声に私はビクリと飛び上がった。
振り返らなくても分かる。できれば休日の街中で会いたくなかった人物。
「すみません、私行くとこあるので…」
「いやいやいや、何で逃げるの?!」
ガシッ!と両肩を掴まれて行く手を阻まれる。しまった、逃げ損ねた。
前に回り込まれて、ああ、やっぱりこの人。
「どうも…オイカワサン」
「露骨な他人行儀酷くない?!」
私より10cm上の目線。私の中で、数少ない見上げる対象。
それよりも私は周りが気になって仕方がない。この人に絡まれると、ロクな目に遭わない。
…ほらほら、聞こえてきた。
「うわっあの人すごくカッコ良くない?」
「すごいイケメン…隣の子誰?彼女?」
「まっさかぁ!てか身長でかっ」
「うん。170以上はあるよね…」
……。
ええ、ええ。175cmあります。
デカイです。無駄にデカイです。
私だって望んでこの身長になった訳じゃないわ。
縮みたいと願って毎日生きてますよ…。
それと、この男とはなんら関係ありません。あるわけありません。
こんなモテ男と一緒にいたら、注目されてそれだけで軽くストレスになりそう。
いや、すでにもうストレスだ。
はああ……。
「やだなー、イケメン及川さんを見てため息だなんてさー」
「あんたといればため息も出るわ…」
「惚れ惚れしちゃって?」
「なわけあるか」
まったく酷いなぁ!と及川は肩を竦めてオーバーリアクション。うざい。