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【ハイキュー!!】青春飛翔論

第4章 変わらぬ景色、変わりゆく時【西谷夕】


「…そういえば美咲、顔に土ついてるぞ」
「えっ?どこ?」
「あーそこじゃない、もっと右…あーもう、じっとしてろ」

夕が私の横に手をついて、身を乗り出すようにして私の顔に手を伸ばした。
縮まる距離。
夕の顔が近くて、ドキドキしてる自分がいる。
大きな手が私の頬に触れて、

「…っ、」

ばちん、と近距離で目線がぶつかった。
その瞬間、幼い頃の情景はパッと消え去って、そこには高校生になった私たちがいた。

「…ごめん、俺、」
「夕、あの、」


「お前にキスしていいか」


その質問にYESかNOか答える前に、私の唇に夕は自分のを押し付けた。
心拍数と体温が上がっていくのが分かる。心臓がうるさく波打って、壊れそうだ。
ひたすら甘くて、胸が痛い。
唇が離れた後も、鼓動は早く、温度も高い。
傍に腰を下ろした夕は黙ったまま、こちらから顔を背けるようにそっぽを向いた。

私たちはずっと一緒にいる。お互いの性格、考えていることは、だいたい分かる。
きっと私たちが今何を考えているか、というのは同じだ。
夕が私にキスした理由と、
私がキスを受け入れた理由。
その意味は、

「…映画」
「…へ?」
「映画、見に行こう。買い物も行こう」

私たちの考えることは、同じ。

「俺は、付き合うってことはよく分かんねぇ。でも、」

お前と一緒にいたいって思う。
その言葉に私は、うん、と頷いた。

「俺と付き合ってくれ」

あぁ。そうだった。
夕はいつも真っ直ぐだった。
脇目も振らず、ただ単純に、素直に真っ直ぐに。
そんなあなたが羨ましいって思ってたの、夕は知ってる?

「…私が断れないの、知ってるくせに」
「美咲、その言い方はズルいぞ。俺は、はっきりお前の口から聞きたいんだ」

こういう時の夕はすごく頑固で、昔から変わらない。
変わってないね、なんて言ったらあなたは怒るかな。

「…はい」

その瞬間身体がぐぐっと引き寄せられて、いつの間にかすっぽりと夕の腕の中に収まっている。
感じたことのない感触に、この十何年間、夕に抱きしめられたことは一度もなかったということに気づく。
私たちはもう、ただの幼馴染じゃない。
でも、こんな日を私はずっと待っていたのかもしれない。この暖かさが、愛おしくてたまらない。

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