第25章 溶けて、蕩けて、飛んで、【国見英】
英はポケットをゴソゴソすると、トリコロールカラーのパッケージを取り出した。
「あ、私にもちょうだい」
「ん」
手渡されたキューブの包み紙を剥がすと、甘く焦げたキャラメルの匂い。
口に放り込むと、それはやっぱり甘じょっぱい味がした。
どうやら英は、ただ甘いだけのキャラメルはお好みでないらしい。
「…ん?あれ、まだ先生来てないの?」
糖分が巡ったおかげか、覚めてきた脳みそは、ようやく妙にざわつく教室に気づいた。
そして無人の教卓にも。
「…ぽいね。次なんだっけ」
「確か…日本史」
ざわつく声に耳を傾ける。
『先生忘れてんじゃね?』『このまま自習とか』『お!自習さんせーい!』…
エトセトラ・エトセトラ。
高校受験を終えたばかりの学年ということもあり、授業ナシということへの危機感はゼロ。
まぁ、授業を丸々すっぽかして睡眠に捧げる私たちにも無論無い。
「あ、ねぇ、教科書忘れたから見せて」
「ん。もう席くっつけてるけどね」
口実だよ、口実。
と口端を少しキュッと上げて悪戯顔の英。
そーですね、席をくっつけるための正当な理由が必要ですもんね。
私もそう返して息を吐くように笑った。
教室の支配者が未だ教卓に現れないという状況に、生徒たちのボルテージはさらに増す。
英は騒々しい音に顔をしかめた。
「…静かにしてればいーのに」
「多分うるさいと隣とかから先生来るよね…」
授業が潰れるかもしれないというイレギュラーな状態に浮き足立つのも分かる。
けれど、うるさくしたせいで周りの先生が気付いた瞬間、自習という二文字が消え去ることに気づかないのだろうか。