第25章 溶けて、蕩けて、飛んで、【国見英】
先生がいないなら立ってる必要も無いか、と私は席につく。ブランケットを膝にかけると、ちょうどいい温度感にまたアイツがやってきた。堪えきれず欠伸を漏らす。
頬杖をついて目線を廊下側に向けると、不機嫌そうな顔で女の子がドアのところに立っている。
「あークラスに絶対1人はいるよね、ああいうタイプ」
「…確かに」
「偉いよねー、別にそれを止めさせようとは思わないけど」
『いーじゃん、行かなくて!先生来るまで待ってよーぜ』という言葉に彼女はムッと眉を寄せている。
不思議なもので、どのクラスにも良心の塊みたいな優等生が必ず1人はいるものだ。
そしてその子を止めさせようとする、おちゃらけ者も然り。
「…俺寝るわ」
「私も寝よっかな」
私たちはこの僅かな時間をも睡眠時間に充てようとする『眠り姫』。
腕を枕に、瞼を閉じる。
彼の顔をちらりと覗き見すると、英も片目を開けてこちらを伺うように見る。
パチンと合った視線に、2人でクスクスと笑った。
甘く溶けて消えたキャラメル。
私の右手と英の左手。
机と机の距離は0センチメートル。
浮き足立つ教室の奥、ふわりと睡魔が2人に降り立ちて。
ポワリとしたそれは脳を蕩(とろ)かして、体内を侵食し始めている。
蕩けた脳は瞼への指令を諦めたのか、視界がストンと落ちた。
あべこべな世界へと飛ぶまであと、
「溶けて、蕩けて、飛んで、」おわり