第25章 溶けて、蕩けて、飛んで、【国見英】
チャイムの音で目が覚めた。
10分間の浅い眠り。変な体勢で寝てしまったせいか、若干肩が痛む。
どうしてもお昼ご飯の後の授業というのは睡眠欲に負けてしまうものだ。
それがおじいちゃん先生による古典の授業なら尚更。私はストンと快適な眠りに落ち、授業終わりの挨拶のために一度目を覚ましたものの、休み時間も同じように夢の世界へ飛び立ったのだった。
「…ん…ねむ」
欠伸まじりにそう呟いたのは、私ではない。
「おはよ」
「ん、はよ」
お昼真っ只中に、朝の挨拶。
この冬眠明けの栗鼠みたいなのは(栗鼠に比喩するにはやや身長が大きすぎるが)国見英という無気力少年である。
「…美咲爆睡だったでしょ」
「英も負けずと劣らず、ね?」
そう言うと英の目がふっと和らぐ。
表情に乏しい英のその変化に、出会った当初はなかなか気付かなかったが、今では手に取るように分かる。
のそり、と立ち上がって伸びをする。
大きく息を吸って脳に十分な酸素を送り込むが、ぼわっとした眠気は完全に出て行かない。それどころか再び欠伸が出る。
そして、同じタイミングで隣からも眠そうな声が聞こえた。欠伸のデュエット。
『ダブル眠り姫』という不名誉とも言える渾名が付けられたのも、全てはこの睡魔のせいだ(英は姫というのにご不満らしいが、綺麗な顔にぴったりだと私は思っている。自分に関してはネタだから仕方ないと受け入れている)。
「夜更かしはしてないんだけどなぁ」
「俺、昨日10時半に寝たんだけど」
「健康的すぎでしょ」
「だって眠くて」
という私も、昨日はお昼寝をした上に、日付が変わる前にはベッドに入っていたから英とそう変わらないのだが。
何故か、我が体内の眠気は24時間体勢で働いている。早く寝ようが遅く寝ようが、眠い。何かの病気なのかなと思うくらいだ。