第3章 ニュートラルグレイ【菅原孝支】
「…美咲、何描いてんの?」
「へ?!」
放課後、現代文の続きを描き続けていると、突然聞き慣れた声が降ってきた。
慌ててルーズリーフを裏返す。
すると彼は、えーなんで裏返すの?と眉を下げた。
「見せてよ、美咲の絵見たい」
「やだ、絶対嫌!」
バッと上半身で机の上のものを隠す。
バレー部は?と聞きかけて、今日に限って体育館が点検で使えないんだっけと思い出す。なんでこうタイミングが悪いんだろう。
無人の教室は周りの目を気にすることなく絵が描ける、絶好の場所だと思ってたのに。油断した。
「…ごめん、ウソついた。何描いてたか知ってる」
大地でしょ?という菅原のこの言葉に、とてつもない罪悪感を感じてしまうのはやっぱり、この彼のことが好きだからなのだろうか。
あーあ。見られちゃった。
この絵は菅原だけには見られたくなかったし、見られちゃいけなかった。
「大地のこと…好きなの?」
「…え?私が、澤村を?」
「違うの?」
まぁ、そう思われても仕方がないと言うかなんと言うか。
どちらにしてもクラスメイトを熱心に描く人間はちょっと気持ち悪いよね、とヘコむ。
菅原にもそう思われたんだ、と考えてますますヘコむ。
「あれ、怒った…?ご、ごめんな、そういうのは口に出していいもんじゃないよな」
「え?えーとその、違うの…多分そういうんじゃなくて、その、」
「?」
「えっと、変なふうには思って欲しくなくて、その…」
デッサン、しやすくて。
そう言うと、キョトンとする菅原。
「…ちょっと気持ち悪い話するよ?」