第3章 ニュートラルグレイ【菅原孝支】
「…では3段落目、えー、ここでは主人公がですねぇ…」
おじいちゃん先生の子守唄のような声をBGMに、私はシャーペンをシャッシャッと動かす。
もちろん書いているのは文字じゃない。
ーー角張った顎からのラインはゴツくて、太い首、半袖の白いワイシャツの袖から出てる腕には筋が立っていて。
筋肉質の二の腕、手は骨ばっててゴツゴツしている。
私の机には、教科書と筆箱をちょっとした目隠し用にして、真っ白なノートを開く。
そしてその脇に置いた一枚のルーズリーフの上で、私は手を動かす。
現代文の時間を真面目に聞いている生徒は少ない。
こくりこくりと舟を漕ぐ頭、ガクンと首が落ちている人、腕を枕に最初から寝る気満々な背中。
起きている人の中でも、そのうち何人かは数学の問題集を広げている。
きちんと授業を受けている人は多分少なくて、窓際の私の席から確認できるのは、斜め二個前の澤村と、隣の菅原ぐらいだと思う。
私はというと、残念ながら真面目な生徒ではなかったので、板書には目もくれず、シャーペンをせっせと動かした。