第23章 進路調査と彼岸花【木葉秋紀】
それからどれくらいが経ったか。
「ーーまぁ、人生の墓場とは言ってもさ」
ぽつり、と木葉が口を開く。
空の青さを覆すように。
「墓場だってさ、必要だぜ?なかったら路上で野垂れ死ぬだけなんだからさ」
「む……確かに。野垂れ死んで人様に迷惑かけるのだけは避けたい」
「だからさ?お互い、いい歳して独り身だったら、一緒に墓場入りしようぜ?」
は、と私は短く笑った。
「何?『同じ棺桶に入ろう』がプロポーズ?ロマンチックの欠片もありませんこと」
「お前の口からロマンチックという言葉が聞けるとはね。どうせそんなのどうでもいいんだろ?」
「あれ、ばれた?」
「お前のことはだいたい分かるようになってんだ。俺を舐めんなよ」
キーンコーンカーンコーン。
1時間ぶりの鐘の音が私たちの会話を遮る。
私たちはふと目を合わせた。
「……進路調査も白紙なのに何結婚の話してんだろ、私たち」
「……確かに」
変わり映えのない毎日は、私たちの知らないところで確実に時を刻んでいて、いつの間にか"今の未来"が"今日"になる。
今この瞬間も"過去の未来"だったんだと思うと、意外と未来は遠くないのかもしれない。
「次の授業…どうする?」
「確か数学だよな…あのハゲうるせーしなぁ…」
「……」
「……」
「…行こっか」
「…ああ。そーだな」
よっこらせ…と重たそうに腰を上げる木葉の腕を掴み、私も両足に力を入れる。
すると掴んだ手の逆の手首を持って引っ張られたと思うと、木葉の顔が近づいて、
「…え?」
つい間抜けな声が出る。
そんな私の視界を邪魔するように木葉は髪の毛をぐしゃぐしゃっと撫で回した。
そしてその手が離れると、
「…ぼさっとしてないで、置いてくぞ」
その声の後にギィイ…と重い金属の音がした。
その場に取り残された私と、抜けるような青の空。
「…き、キス…され、た…」
私の言葉は二度目のチャイムにかき消された。