第23章 進路調査と彼岸花【木葉秋紀】
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時は経って、十数年後。
2人の男女が、街灯に照らされながら夜道を歩いていた。
「あーあ、結局あんたと一緒なのか」
「光栄に思えよ」
「はいはい、嬉しゅうございますぅ」
コツンコツン、と二人の軽快な足音が鳴る。
「……さーて、墓場に参りますか」
「墓場だけにぼちぼち行こうとか言わないでよ」
「オヤジにはまだ遠いから言わねーよ」
「とか言って、数年後には『アイムソーリーヒゲソーリー』とか言うんでしょ」
「あーあー、年食うってこえーなー」
スーツ姿のサラリーマンは顔を顰めて、色素の薄い髪をくしゃっとかきあげた。
パンツスーツのOLは、何かを思い出したように「…あ」と呟く。
「ん?」
「そういえば私、三十路になってウエディングドレスなんて着ないからね」
男の方は、はっ、と少しバカにしたように短く息を吐いて、「安心しろ、着せるつもりは毛頭ねぇ」と答える。
「あ、着物の方ならギリギリイケる?」
「なに、白い着物?白装束?」
「死化粧してそのまま棺桶行き?どつくぞ」
「どうせ今から墓場行きなんだから一緒だろ」
口元をニヤリとさせる男に、女は「…確かに」と似たような笑みを返した。
「ブーケトスは彼岸花ってか?」
「白の着物に紅の彼岸花…悪くないね」
「縁起はこの上なく悪いけどな」
乾いた二つの笑い声。
道の端っこで、紅の花が静かに二人を祝福していた。
「進路調査と彼岸花」おわり