第23章 進路調査と彼岸花【木葉秋紀】
「…話掘り返すけどさ」
「内容によっては掘り返させないぞ」
「あの告白断って良かったのか?あいつ、割と人気あるんじゃねーの」
そう言う木葉の目には青い空と白い雲が映りこんでいて、どこに焦点が行っているのかよく分からない。
「うーん…確かなとても魅力的な物件ではあったんだけどねぇ」
「物件ってお前なぁ…」
「でもナシかな。無理。お友達がいい」
そう言うと木葉は頭をもたげてこちらを見た。
なぜか不思議そうな顔をしてる。
「その顔ブサイクだよ」
「るせーな」
ムッとしたように顔をくしゃっと顰める。
「いや、さ。私、すでに猫被りがデフォじゃん?正直、素の状態で居られる人じゃないと付き合えないわ」
…なるほど、と木葉。
「それを考えると結婚とかって無理だなって思うんだよねぇ。24時間も猫被ってたら猫アレルギーになる」
「猫アレルギーとか意味わかんねーよ」
「例えの話だっての」
全く、冗談の通じないやつだ。
やれやれと大袈裟に肩を落とす。
「いやー、結婚は人生の墓場って言葉があるじゃない?よく分かるなーって思うのよ!付き合うのも無理かなって思うのに、結婚なんてしたら終わりだね。素の自分消えて最早アイデンティティの喪失」
「結婚って…気が早すぎだろ」
「チッチッチ…残念ながら16歳以上の私は憲法上、親の承認さえあれば結婚出来るのです!」
そう、よくよく考えると、もうそんな年齢の人間になっていたのだ。
なんと、他人の苗字でヴァージンロードを歩く権利がこの手に…!
しかし、その権利も一人では行使できないわけだけど。
「…ん?あれ?」
「どうした?」
「それじゃあ素の状態を知ってて尚且つその状態でいられる人…」
「……」
「もしかして木葉だけが今のところ私の結婚条件を満たしてる?」
「ぶっ」
うわ、噎せていやがる。
私の未来の旦那がそんなに嫌か、コノヤロウ。
「失礼な奴だな」
「あ…嫌、ってわけじゃねーんだけど」
「じゃあいいってわけ?」
「……そんなことド直球で聞くんじゃねーこのアホが」
「アホはそっちだ、どアホ」
「あーはいはい」
私たちの会話は、結局軽口の言い合いで終わるらしい。
私はどさっと上半身を地面に投げ出す。
空が高い。白い雲を負かすぐらいの青が眩しい。
しばらく私たちはその青に吸い取られたように言葉を失っていた。