第23章 進路調査と彼岸花【木葉秋紀】
「それ昨日も言ってた」
「え、そうだっけ」
「言ってた。文句言うなら他のもん買えよ」
そういう木葉だって昨日と同じコッペパンを食べてるじゃん。この味飽きたーとか言ってんじゃん。
お昼ご飯のメニューも昨日と一緒。
食べる場所も一緒。時間も一緒。
隣にいる奴も一緒。
あれ、今日は昨日だっけ。昨日は今日だっけ。
「…今日って昨日だっけ?それとも明日?」
「は?受験勉強でとうとう頭イかれたか」
色素の薄い頭をパッコーン!とはたく。
ってぇ!と木葉は頭をさすった。
「毎日変わり映えがなさすぎて昨日と今日の判別がつかないって意味!多分明日も似たよーな1日過ごすんだろうなーって」
「あー…それは、分かる。確かに」
部活を引退すると、そのぽっかり空いた時間に急に勉強をしだすのは、受験生の習性なのか。
毎日学校に来て、授業を受けて、ご飯食べて、また授業を受けて。それから自習して、暗くなった頃に適当に帰る。
そのサイクルになってからどれぐらい経っているのか。
ずっと前からのような気もするし、ついこの間からのような気もする。
毎日ほぼ同じ1日。これが無限に続くんじゃないかという感覚。
「無限ループの真ん中にいる感じ。何ていうか…めくられないカレンダー?」
カレンダーがめくられないから一生入試は巡ってこないし、受験生生活も終わらない。
そんな錯覚に陥るほどに変化のない日々。
と、そのとき、鐘が鳴った。授業開始5分前。
下階から聞こえる騒めきがだんだん静かになってくる。
いつもなら、ここで私は空になった牛乳パックを潰して、包装ビニールをコンビニのレジ袋に突っ込む。
そうして先に立ち上がった木葉の手首を掴んで腰を浮かすところ。
だったが。
「……ねぇ、予鈴」
「…俺には聞こえなかった」
木葉は立ち上がらず、ごろりと寝そべった。それから瞼を下ろして深く息を吐き出す。
まるで日向ぼっこをしてる猫みたいだ。
嫌味なほどサラサラな前髪が、スルリと額から落ちた。
二回目の鐘が鳴り、校舎から人の騒めきが消える。
ただ一つ、風の音だけが聞こえる。
「授業始まってる」という言葉は出てこなくて、私は「そっか、」とだけ返した。