第21章 白に混ざる【夜久衛輔】
「あんまりうるさいとレシーブ練増やすぞ」
「そんな理不尽な!」
「え、なに?レシーブ練増量?」
うわ、こんどはトサカかよ。
どうして俺の周りは動物が多い。ここは動物園か?
「黒尾先輩!夜久先輩が酷いんすよ!美咲先輩の匂いがするーって言っただけでバカにするんですよー!」
「んん?マネの匂い?」
一瞬アホ面をしたのちに、ニタァ…と口角を上げる。全く、いやらしい笑顔だ。
「なんだー、やっと付き合い始めたか」
「……は?」
"やっと付き合い始めたか"?
"やっと"?
「いやァ、いつになっても進展なさそうだからさー、この黒尾サンが恋のキューピッドになってやろーかと思ってたんだけどなぁ」
天使の輪っかをぶら下げ、弓矢を手にドレープをまとったトサカ頭が脳内をよぎる。
うん、何か不吉だ。
容赦なく脳裏から消し去り、俺はそもそもの問題に立ち返る。
俺が美咲のことを好きだなんて言ったことがあったか?
「おっと、知られてないと思ったら大間違いですよォ、衛輔クン。主将を舐めてもらっちゃァ困るね」
俺の心の中を見透かしたように言うトサカ頭。
チッチッチ、と左右に揺れる人差し指がとても腹立たしい。とてもとても腹立たしい。
「…うん、痛い」
「そりゃお前の手を掴んで捻り上げてるからな」
「スミマセンデシタ」
仕方なく手を解放する。
一応バレーの武器であるから致命傷は与えられない。
そこは俺の我慢の耐えどころだ。
「…で、何なんだ、『やっと』って」
「いや、まんまの意味だけど」
「……」
「お前は見ててバレバレ。美咲はお前のことをそれとなく聞いてくるし、その割には誤魔化すの下手くそだし。いわゆる両片思いに挟まれた黒尾サンって感じ?」
「…黒尾クン?」
怖いくらいに綺麗で丁寧な声。
う、と黒尾はニタニタ顔を強張らせた。
その声の持ち主は、