第21章 白に混ざる【夜久衛輔】
「お、おー美咲サン…」
「黒尾クンは高三にもなって言っていいことと悪いことの区別もつかないのかな?」
「いやァそういえば教室に忘れ物したんだったわ、取りに行かなければ」
さらば!と冷や汗を浮かべながらヒラヒラと手を振ってUターンをする黒いトサカ頭。
かと思えば戻ってきて、「お前も来い」とグレーの頭を鷲掴みにして連行していく。
リエーフは、「なんでですか…って痛いっす!横暴です!離してくださいー!」と抵抗するが主将には勝てず、そのままずるずると引きずられていった。
というわけで、美咲と二人きりという状況だけが残された。
…ええっと。これって告白の流れなのか否か。
「…えっと美咲、」
「や、夜久くん!」
「え?あ、は、はい」
美咲の声に俺の葛藤は吹き飛ばされた。
…これってもしかして、の流れのような。
「あの…ね!私、ずっと、夜久くんのこと、」
「うわっちょ、待て、ストップ!」
覚悟を決めたような顔の美咲の頭を引き寄せて、口を慌てて手で塞ぐ。
そして自分でやってしまったなと思う。
唇が手のひらに軽く当たってこそばゆいし、なにこの体勢。近い。
ご、ごめん!と慌てて離れると、お互いに気まずい空気感。
うっわー、やってしまった。
「えっと…だな、美咲」
「う、うん」
気を取り直して。
今こそ腹をくくれ、男・夜久衛輔。
「今のは、えっと…大事な話って解釈でいいか?」
こくりと頷く美咲。
…もはやこれが暗に告白しているようなものだが。
「えっとさ、そういうのは俺から言いたいし、ちゃんとしたいんだ、そういうとこ」
俺がそう言うと、美咲は一瞬ハッとしたような顔をして、それからクスリと息を吐くように笑った。
「うん…そういうとこ、夜久くんぽい」
「そうか?」
「うん、そうだよ」
「だからさ」
「うん」
「部活の後まで待ってほしい。帰りに、ちゃんとする」
何を、とは言わなくても分かるだろ。
美咲は嬉しそうに「うん!」と頷いた。
布が擦れて、ふわりと鼻をくすぐる甘すぎない匂い。
この石鹸の匂いは、君から香るのか。
それとも俺からなのか。
隣の君のワイシャツが、白く眩しかった。
「白に混ざる」おわり