第21章 白に混ざる【夜久衛輔】
保健体育ははっきり言って内職・睡眠の時間だ。
3割以上の頭が机上に沈没し、カリカリと数式を繰り広げる者が数名、英単語を眺める者が数名、以下諸々。
俺はそのうちのどれにも属さずに、ぼーっと意識を宙に漂わせていた。
♪〜
グラウンドから軽快な音楽が流れ、俺は首を傾けてそちらを伺う。
高3の女子たちが、列をなしてポンポンを振る。
前列ほど動きが大きく、後ろの人になるにつれてやる気が失われていくのが、教室からも見て取れた。
(…あ、あれかな)
前のほうで軽快に踊る、見慣れた頭。…いや、髪と言うべきか。
ダンス上手かったんだな、と窓際の席でぼんやり考える。
空は快晴だ。秋晴れというやつか。
高3の秋。一般に受験期。
どうしてこんな時期に保体の授業があるのかが全く不思議だ。呑気なものだ。
けれどこの時間を使って勉強しようという気は起こらず、俺はぼーっとグラウンドを眺めていた。
無意識に美咲に視線の焦点を合わせる。
髪の毛の黒、体操着の白、ハーフパンツの紺色、手足の肌色。
秋の日差しのおかげで、白が眩しく目に映る。
(今、あいつは俺の服着てんだよなぁ)
ふと思い出された事実に、変なものが湧き上がって、渦巻いた。
そのあとに来たのが、ちょっとした罪悪感。
(いやだって…仕方ねーだろ…俺、フツーの男子高生だし)
自分の中で勝手に開き直ってみたが、その後、俺は窓の方を向けなかった。