第21章 白に混ざる【夜久衛輔】
「夜久くん!」
聞きなれた声に自分の名前を呼ばれて振り向くと、そこにいたのはやはりそいつだった。
同じクラスのバレー部マネージャーの美咲。
何の用かと思えば、急にパチン!と目の前で手が合わせられる。
「体操着を貸してください!」
「は、はぁ?」
思いもよらないお願いに、一瞬たじろぐ俺。
確かにうちのクラスの次の授業は体育。
男子は教室で保健体育で、女子はグラウンドで体育祭のダンスの練習だ。
「…体育着忘れたのか?」
「ハイ…」
ガックリとうなだれる。
美咲は、周りからしっかり者のように思われてるが、意外とそうでもなかったりする。
何故かカバンにエアコンのリモコンが入ってたり、ローファーと間違えてスニーカーで登校したり…結構地味にやらかすタイプだ。
「でも、わざわざ俺に借りる必要があるのか?女子に借りれば?」
「今日は学年の女子全体で体育だから…」
「あー…なるほど」
確かに、それなら借りれる相手がいない訳だ。
まぁ部活用と別にもう一枚体育着を持ってるから、俺としては別に問題はないのだが。いや、ゼロじゃないけど。
「まぁ…俺のでいいんであれば、別にいーよ」
「本当?わぁあ助かった!」
本当にありがとう!と全力の笑顔で言うから、別段悪い気はしない。
「これ、洗って返すから!」
いーよ、そんな面倒くさいこと…と言おうとして、それはそれで問題があることに気付く。
仮にも異性が着たものを所持するって。
なんだかそういう性癖の変態みたいじゃないか。どことなく犯罪臭が…。
という思考を数コンマで繰り広げた結果、
「…ん。よろしく」
と俺は体育着を差し出した。