第20章 夏ノ想ヒ出【縁下力】
「そういえば美咲、あの時冴子さんに何か言われた?なんか視線を感じたような気がしたんだけど」
悲痛な悲鳴を背に、俺たちは田中宅を後にした。
夏至を少し過ぎたばかりだから、日はまだまだ長い。時間の割にはまだ明るい頃。影は長く、目の前に伸びている。
え?あ、あれか…。と美咲はふふ、と眉を下げて笑った。
「冴子さんにね、『夫婦みたい』って言われたの」
「…美咲と俺が?」
「そう、力と私が」
答えるのに少しどもってしまった。変には思われてないか?
美咲は「空気感がもう、とか言われちゃってさー」と話を続けてる。気にしてない。ホッとする。
「夫婦だなんて、ちょっと」
「段階飛ばし過ぎたな」
「そうそう、私たち付き合ってもないのにねー」
はは、と美咲は笑った。
そう。
俺たちは恋人でもなんでもないのだ。
ただの友人、もしくは部員とマネージャー。
まぁ…付け加えるなら、
「そうだな」
俺の一方的な片思い。
かれこれ2年目に差し掛かっている。
正直、歩くたびに揺れるスカートだとか、裾から伸びる脚だとか、ブラウスを押し上げる胸だとか、云々。
俺だって健全な男子高校生、考えることはそれなりにある。
「縁下は彼女作んないの?」
知り合って、気付いたら好きになってて。
この1年間で、仲のいい男友達のポジションを築き上げた。
けれど、これはずっと前からそのポジションに収まるような感情ではない。
だから俺は進むか諦めるかの2択しかないのに。
それを取り壊して一歩進むタイミングを伺ってたら、ぐずぐずと二度目の夏休みになっていた。
もしかして、そのタイミングって今じゃないか?