第5章 WC予選
また大我を笑って茶化すと大我は私を近くの壁に押し付けた。そう、噂の壁ドンだ。
当然私は何が起こったのか理解できなくて頭が真っ白になる。そして大我は飢えた獣のように目をギラギラさせて私を見つめる。
一体どうしちゃったの、大我?何だか怖いよ…。
私はあの時と重なって恐怖を感じ、涙をまた流してしまった。私の涙を見て大我はハッとしたのか、すぐに離れてくれた。
大我は今度は拳に力を込めて腕を震えさせながら、目線を下に向けて信じられない事を言う。
「…悪りい。お前を怖がらせるつもりはなかったんだけど。最後に会った時よりお前がめっちゃ綺麗になってて、抱き着かれたらさらに気持ちが高ぶってどうしようもなくなったんだ。」
初心な大我から発せられたとは思えない言葉に私は頭が混乱しまくる。そして下に向けていた目線を私に戻して真剣な眼差しを向ける。
「夏美、お前の事、初めて会った時からずっと好きだった。日本に帰った時、お前に会えなくなると思ったらバスケも手がつかなくなった。」
目と口が開きっぱなしな私に構わず大我は言い続ける。
「他に好きな奴がいないってなら、俺と…付き合って欲しい。お前が辰也を1番でも構わないんだ。俺なら受け入れられる。」
大我は表情を変えずに私の返事を待つ。気持ちは凄い嬉しいけど、答えは一つだ。
それに好きな奴なんて言われても私にはお兄ちゃんしか思い浮かばない。
けど、気になる存在ならいる。
私は苦虫を噛んだように顔を歪ませた。
「…ごめんね。あたし大我を弟以上に見れない。それに今気になる人がいるの。」
私は大我の顔を見るのがちょっと怖くてしばらく力いっぱい目を閉じていた。そして、大我が溜息をついてから優しい声色で私に言う。
「あーあ、やっぱりな。どうせこうなるって思ってたよ。」
「ごめんね…。でも気持ちは凄い嬉しいよ。」
謝る私に大我は精一杯の笑顔で優しく語りかけたと思ったらいきなり頭を叩かれる。
「なーにショボくれてんだよ。ビシッとしろ!」
「いったーい!何すんのよ!」
私をよそに大我は救急箱を置いて踵を返して手を振る。
「お前はそのぐらいのほうがいーぜ!じゃあな!」
「大我!次の試合絶対勝つんだよ!」
私が叫ぶと大我は親指を立ててその場を去った。