第5章 WC予選
言葉を選ぶのに苦労しているんだろうか、大我は両手を組んでしばらく悶々と考えていた。でも大我はちょっとおバカさんだからこのままだと日が暮れそうだ。
「…あの、正直に言ってくれていいんだよ?」
そう助け舟を出すと大我はやっと口を開いてくれた。
「…俺も夏美と同じだ。昔のままでいたかったよ。夏のストバスで辰也に再会して、あいつはもう昔とは匂いが違ってた。」
ここで私はお兄ちゃんと大我が夏休み中に再会していたことを始めて聞いて、目が点になるほど驚く。
「え、何それ!初耳なんだけど!?」
「辰也から聞いてなかったのか?てっきり知ってると思ったぜ。」
もう!お兄ちゃんってば!やっぱり大事なところは言ってくれないんだから!しかも流しちゃったけど、大我、匂いって何?雰囲気の事?
私は心の中で怒ったり、突っ込みを入れてると大我は申し訳なさそうに質問の答えの続きを答えた。
「わりい、元に戻れるかどうかは正直、辰也と決着つくまでわかんねーな。」
「…そっか。やっぱりそうだよね。でも大我もあたしと同じ気持ちで安心した!それだけでも十分だよ!まだそのリングしてるもんね!」
大我の気持ちが聞けたことで私は微笑むと、大我はまた人差し指で頬をポリポリとかいて、ばつが悪そうにする。
「そうか?ならいいんだけど。ところでさ、なんで夏美は辰也と同じ学校行かなかったんだよ?」
大我にいきなり話題を変えられて一瞬戸惑うけど、長い付き合いだしここは正直に言うことにする。私はまた神妙な面持ちで言う。
「…本当は一緒に行きたかったんだけどね。都内にいっぱい学校あるのにわざわざ陽泉行きたいってお兄ちゃんが珍しくパパとママにお願いしてたの。理由は私もわからないんだ。お兄ちゃん、何も言ってくれないし。」
大我は相槌を打ちながら黙って私の話を聞いていた。