第5章 WC予選
「いーから、落ち着けって。花宮か…。俺もさっきチラッと見たんだけどよ、気にくわねぇオーラがぷんぷん匂ってた。」
「だったら、尚更!」
なだめるように大我は言うと、私は心配でまた感情と声が高まる。大我は私の両肩を掴み、真剣な眼差しで私を見る。
「落ち着けって言ってんだろ。あんなクソ野郎は俺が、いや俺達がぶっ飛ばすからお前は気にしなくていーんだよ。お前には俺が成長してるように見えないのか?」
大我のいきなりの質問に私は首と両手を左右に振って否定を示す。
「ううん。そんなことない!むしろ成長しすぎて惚れ惚れしたよ!」
答えると大我は両肩に置いた手を離し、口角を上げて不敵な笑みを浮かべた。
「なーんだ、わかってるじゃねぇか。なんでそこまで霧崎を気にするんだよ?」
私はリングのネックレスを指で掴んで大我の目の前に示す。鈍い大我だけど、この時ばかりは察してくれてまた溜息をついた。
「やっぱり、結局は辰也の事か。相変わらずだな。」
私は両肘をテーブルの中央あたりにつけるように上半身を寄せて、握り拳を作って大我を見つめる。
「お願い!絶対に勝って!大我が日本に帰ってから、お兄ちゃんずっと煮え切らなくて辛そうだった…。今年のウィンターカップで東京はあと2校出場できるでしょ?チャンスは今しかないわ!」
ここまで言うと私はお得意の感情移入で涙がまた目に溜まってきた。最近泣き過ぎで自分でもウザいなと思うけどどうしても止まらない。
大我は困った顔をしながら、ティッシュをポケットから出して私の涙を拭いてくれた。
「…ったくよー。相変わらず泣いたり笑ったり怒ったり本当忙しい奴だな。…ほら、落ち着いたか?」
お兄ちゃんや高尾君の優しさとは一味違う、不器用ながらも誠実な彼の優しさに私は心が暖かくなる。
本当私の周りは人に恵まれてるとつくづく思い、密かに彼等の存在に感謝する。
「…ぐすっ。大我、ありがとう。欲を言えば本当は昔みたいにいたかった。この前そう言ったらお兄ちゃんと喧嘩しちゃって…。もう、無理なのかな…?」