第5章 WC予選
「もう!高尾君のせいで怒られちゃったじゃない!」
「いやいや、それは夏美ちゃんもっしょ!お互い様だって!」
二人はまた小声で言い合うも結局また宮地に一喝される。その光景をバスケ部一同は呆れながらも微笑ましく思った。
それは夏美と高尾だからなのであろう。
2人はそれぞれ秀徳バスケ部の癒し担当、そしてムードメーカーとして必要不可欠な存在だからだ。
その場にいた男子部員達は2人が早く付き合えばいいのにと心から思っていた。じれったくてしょうがないくらいに。
それは高尾も同じだった。だけど夏美の気持ちを1番に尊重したいから、彼女が応えてくれるまで待つしアプローチしていこうと思っていた。
夏美は高尾のことを確実に意識はしているが、やはり辰也の事がどうしても気にかかるし、付き合うにはあの一件のせいでまだ抵抗があった。
いよいよ誠凛との試合が間近に迫るとスタメンの表情が一気に獣のように険しくなり、全員のオーラに闘志がギラギラと宿っている。
そんな男達の逞しい姿や雰囲気に夏美は圧倒されるも、魅入った。
(すごいわ、皆…。これ程までに待ち望んでたのね。)
だがここで秀徳が勝ち、誠凛が負ければ誠凛にWCへの切符が遠ざかる事が心に引っかかる。
(どうしよう。秀徳にはもちろん勝ってほしい。けど、お兄ちゃんを思うと誠凛にも負けて欲しくない。こんな時に私情を混ぜるなんて、私マネージャー失格だ…。)
兄と違いポーカーフェースを装うのが苦手な夏美はすぐに浮かない顔をしてしまい、高尾に背中をぽんと叩かれて心配される。
「どったの?夏美ちゃん?浮かない顔しちゃって。お前が元気じゃないと調子狂うぜ。」
「やだな!私は大丈夫だよ!それより頑張ってね!!」
夏美は罪悪感を感じながらも笑って誤魔化した。
「おうよ!絶対勝つからな!」
ニコッと笑ってハイタッチをしてきた高尾に夏美はさらに罪悪感で胸が締め付けられた。
(…この試合、どっちを応援したらいいのかわからない。ごめんなさい、皆。)