第5章 WC予選
夏美が控え室に戻るとミーティングが始まる寸前でもうスタメンと控えの選手が全員集合していた。
高尾は走って少し息が上がっている夏美に今迄の所在を確認したが特に気に留めることなく、ミーティングが始まる。
夏美が火神に抱き付いたともし知れば反応は違ったかもしれないが。
今回のミーティングは夏美以外の全員が天地がひっくり返ったのかと思う位、仰天することが起こったのだ。
「監督。…俺が引きつけてパスを出します。」
緑間がこう言ったからである。プライドが高く唯我独尊気味な彼が、チームプレーを意識し始めた瞬間だったのだ。
宮地が先程の瞬間をケータイで撮るように促したり、緑間とずっと一緒にいる高尾ですら唖然としたり、部員達は大騒ぎになる。
夏美はなぜそこまでして皆が騒いでいたのかわからないので隣にいた高尾にこっそりと聞く。
「今のってそんなに珍しいの?」
高尾は2人で秘密を共有している様な状況に思わず舞い上がり、いたずらっ子の様に嬉々として説明した。
「あ、夏美ちゃんは今迄の真ちゃんの事知らないもんな。本当に夏のIHまで、今より我儘とか個人プレーが多かったんだよ。最近になって俺らのこと頼ってくれるようになったし、パスも回してくれるようになったんだぜ。」
夏美は相槌を打ちながら、昔の緑間を想像してぼろくそに心の中で言う。
(確かに真ちゃん気難しいし、基本何でも1人でやっちゃうし、なんか容易に想像できちゃうわー。)
「今夏美ちゃんに聞かれて気付いたんだけど黒子と火神、誠凛のコンビに負けてから変わった気がするわ。真ちゃん。」