第1章 出会いは突然に
そういって高尾はおろおろしてる夏美の上体を起こし、膝に手を引っ掛けて、彼女を抱えた。
「ひゃっ!?そこまでしなくても大丈夫です!降ろしてよ!あ、です!」
だが、高尾は構わず彼女を抱きかかえ、リアカーの荷台に乗せようとした。
生まれて初めて抱えられた夏美は恥じらいから手足をジタバタさせる。
しかも辰也ではない、全く知りもしない男にされているというのが夏美にとってはミソだった。
(お兄ちゃんにもお姫様だっこされたことないのにー!!)
「いーから、下ろしてよ!あ、ください!」
暴れる彼女を高尾は懸命に宥めるも逆効果だった。
「おい、暴れんなって!!別に取って食やしねーよ!!」
「だって初対面だし、お兄ちゃんにだって抱えられたことないんですよ!!」
恥じらいが消えない夏美は頬を赤らめ、声を荒げる。
そんな彼女に高尾は怒りはせず、落ち着かせるためいつものお調子者な口調で言い聞かせた。
「じゃあ、俺を君の兄貴だと思ってて!それに女の子を怪我させちまったんだ、これぐらいして当然っしょ!」
「…は、はい」
(普通暴れたら下ろすもんだよね?なんかこの人強引?
でも、なんでだろ。押し付けがましくないというか自然というか…)
逆手の対応を取った彼に夏美は思わず感心して言葉につまる。このまま自然と彼に身を委ね、リヤカーの荷台に乗せられた。
「んじゃ、真ちゃん後はよろしくー!」
そして緑間はぶつぶつ文句を言いながら夏美の自転車を漕ぎ始めた。
高尾も自転車のサドルに跨り、夏美に振り向くと自転車でリヤカーを引き出す。
「んっしゃー!飛ばしていくぜ!しっかり捕まって下さいよ!」
「は、はい」
秀徳へ目指し懸命にリヤカーを引いている高尾の背中を見てるうちに彼女は何故か急に心臓が煩くなって胸を抑える。
(別にここまでしてくれなくてもよかったのに。優しいんだな……。
え!あたし、この人にドキドキしてるとか?
いや、あり得ない!!あたしが好きなのはお兄ちゃんだけ!!)
そして後に夏美とこのチャリアカーコンビは同じクラスになり同じバスケ部になることはこの時は知る由もない。