第3章 エース様に万歳!
「ああ、着歴アリのこと?」
夏美は思い出したように両手を軽く叩き首を傾げ考え始める。高尾は頭を縦に振り、返事を待つ。
(…大丈夫かな。どうしよう。あの時のような事にはなりたくないし……)
暗がりの中、周囲の電灯を頼りに高尾は夏美が躊躇っていることを察して、安心させるように夏美を見つめて、優しく問いかける。
「…大丈夫。俺は夏美ちゃんに何もしないよ」
夏美は高尾の声と表情を見て、安堵感と不安感が混ざった。そして早く高尾の為に返事をしないと、という焦りも出て気持ちの整理がつかなくなり黙って下を向いてしまう。
そんな戸惑う彼女を見た高尾の心臓は破裂寸前であった。
(…く!やっぱり、ダメなのか?)
不安になる彼だが、夏美の事を諦めきれない。彼はもう一押しする事を決意し、高尾は夏美の名前を呼び、彼女は顔を上げた。
「俺、お前とデートできたらそれだけでもいいんだ。だからさ、1日だけ時間くんない?」
高尾は自分なりの誠意を夏美に向けるため、その表情は普段より硬く真面目で、声色は緊張のせいか震えていた。そんな彼に夏美の心は大きく揺らぐ。
「それに、他の奴より俺といた方が何倍もいいって思わせるからよ」
急に雄を帯びた高尾に夏美は驚くもそれ以上に押しの強さを見せた彼に胸が締め付けられた。
(…!いきなりそんな強引になるなんて、ズルいじゃない)
そして今まで高尾と過ごした日々を思い出し決心がやっと付いた。
(あれこれ考えてもしょうがない!それにあいつと高尾君を比べちゃ失礼だ!なるようになるでしょ!)
「…うん!いいよ!一緒に行こ!」
夏美は笑顔で答えると、高尾はキリッとした細い目をこれ以上ないくらい大きく開いて、喜びを露わにした。
「…マジで!?よっしゃああ!めっちゃ嬉しい!!」
高尾は思わず両手で夏美の両手を包み込んだ。
高尾の行動に夏美は声を漏らし驚く。だが喜ぶ高尾に対して顔が僅かながら緩んでいた。
2人は11時にるるぽーとで待ち合わせの約束をすると高尾はとびっきりの笑顔で手を大きく振り自転車に乗る。そして夏美も手を振って別れを告げ家の中へ入って行った。