第1章 出会いは突然に
八月は終わったというのに厳しい残暑が続いてた九月のある日、止まらない汗を拭きながら自転車を漕ぐ女子高生がいた。
(あっつーい!日本てこんなに暑かったっけ?)
夏美は久しぶりというか忘れかけた日本特有の高温多湿な気候をたっぷり肌で感じながら自転車に乗って登校している
どこに向かってるかというと、あの秀徳高校である。
普通は新しい環境に対して期待と不安を思い、結構緊張するものだ。
でも夏美は始めてのセーラー服に身を包んでも自転車をこぎながら、頭では兄である氷室辰也の事をずっと考えていた。
(お兄ちゃんってば、わざわざ秋田にまで行かなくたっていいのに…。できれば一緒の学校行きたかったな。)
(やっぱり、大我のことがあるから?)
最早、新生活に対する期待と不安より辰也の事で頭がいっぱいのようだ。
それは元々彼女があまり人見知りしないことと、自己主張や表現を必ず必要とするアメリカでの生活が長いせいもあるのだろう。
そして、結構なブラコンである。
兄の辰也は昔から優しく面倒見がよくて頼りになり、幼い頃は特に夏美は存分に彼に甘えて遊んで幸せな時をのびのびと過ごした。
そして彼も存分に夏美を可愛がり、時には叱り、彼女を苛めるものから守ってきた。
おまけに辰也は芸能人など目じゃない位のルックスとビブラートの効いた艶っぽい声を持っており、それが余計に夏美のブラコンに拍車をかけた。
勿論好きなタイプはと友人知人に聞かれたら自信を持って、「お兄ちゃん!!」と答えるのは何時ものことだった。