第1章 出会いは突然に
ープロローグ ー
8月のある日、氷室一家は長年暮らしたアメリカのロサンゼルスから日本に帰国することになった。
ロサンゼルス空港の搭乗ゲートの待合室の椅子で、2人の美形の兄妹が仲睦まじく談笑しあっている。
「お兄ちゃん!日本に帰れるなんて嬉しいね!でもあっちの学校で上手くいくか不安だな」
「ああ。大丈夫だよ、夏美なら。なんてたって、俺の自慢の可愛い妹なんだからな。お前はそのままでいいんだよ」
氷室辰也は、期待と不安が重なっている妹の氷室夏美を、軽くハグして頭を撫で彼女をあやす。
「ちょっと、お兄ちゃん!相変わらずキザなんだから!」
辰也の言動に思わず赤面した夏美は、彼に向かって怒る。身長差のせいで自然と上目遣いになっているためか、全く効果がなかった。
辰也はそんな妹を愛おしく思い、口元が思わず微笑む。
「おいおい、ladyなんだからこういう時は素直に笑っとくんだよ、夏美」
夏美は自分の兄とわかっていても、その微笑みに胸が締め付けられた。彼の甘いマスク、声、妖艶な雰囲気のせいもあるのだろう。
「も〜、お兄ちゃんには敵わないよ。でもありがとう!そう言ってくれるのはお兄ちゃんだけだもん!」
「そうそう。笑ってるのが一番だからな、って!おっと!どうしたんだよ、急に」
夏美にいきなり抱きつかれて辰也は驚く。彼女はとびっきりの笑顔でこう言った。
「I love you,my bro!!(大好き、お兄ちゃん!!)」
辰也は先程と変わらずキザな微笑みを浮かべ、夏美の額にキスをした。そして、優しい目で妹を見つめて言う。
「…(Chu!)Me,too.My only sweet sis.(俺もだよ、たった一人の可愛い妹だもんな)」
(あたし、もうお兄ちゃん離れできないかも…。てかお兄ちゃん以上の人なんて絶対いない!)
そう自負した夏美であったが、日本に帰ることで彼女は大きく変わっていく。