第9章 WC〜後は天命を待つのみなのだよ〜
ブーツを履いて鍵を閉めて自転車で指定された場所へ向かうともう高尾君がベンチに座って待っていた。
高尾君は私に気付くと片手をあげて「よぉ。」と言う。
「高尾君、急にごめんね。」
私は謝りながら高尾君の座ってるベンチに隣に座った。
「いいって。それより、夏美ちゃんが頼ってくれてマジで嬉しい…。」
私の顔を見つめて優しく甘く囁く高尾君に心臓がまたうるさくなる。なかなか喋り出せなくて暫く黙っていると高尾君から話を切り出してくれた。
「…明日の試合の事だろ?不安か?」
「さすが高尾君。DVD見てたら、明日勝てるのか不安になっちゃって。お兄ちゃんの癖見つけようとしても、動きが完璧で見つけられないし、相変わらずインサイドは強力だしで、死角が見当たらないから先が見えなくて…。」
私は両手の拳に力を込めると高尾君が私の片手を掴み、鋭い眼差しで目を俯く私の顔を覗き込む。
「おいおい、お前は俺達の事が信じられないのか?」
「…!ごめんね、そんなつもりじゃ。私、見守ることしかできないのが余計辛くて、それで。」
「俺達を信じて見守るのがお前の仕事だろーが。」
「…!高尾君。」
高尾君に諭されて私はハッとして目を丸くする。
「俺だって正直不安はあるぜ。だけど、全力を出し切って、自分と仲間を信じて勝つのが俺達選手の仕事だ。試合に出られない奴らもお前も秀徳の一員だろ。お前等が信じてくれなきゃ誰が俺達を信じて応援すんだよ?」
そうだよ、何やってるんだ私は。高尾君達が頑張ってるところで私がへこたれてちゃ失礼じゃない。
「…私達しかいないね。」
やっと目が覚めた私に高尾君は微笑みを浮かべて頭を撫でてくれた。