第9章 WC〜後は天命を待つのみなのだよ〜
プルル、プルル…。
電話の着信音がやけにうざったく感じてしょうがないと思ってた所で、彼が出てきてくれた。
『もしもし、夏美ちゃん?』
電話だと直接話す声とは少し違うので何か新鮮だった。でもおちゃらけた口調はそのままだけどね。
「もしもし、高尾君?」
『一体、どうしたんだよ?急に。』
顔が見えないから表情はわからないけど、なんとなく優しく語りかけてくれてる気がする。
安心した私は思わず顔が綻ぶ。
「ごめんね、急に電話して。高尾君の声が、聞きたかったの…。」
自分で言ってる癖に恥ずかしさで思わず赤面して、声が震えてしまう。そんな私とは対照的に彼はいつもと変わらぬ調子だった。
『はは、じゃあ今から会おーぜ!』
「え、いいの…?」
予想外な言葉に私は驚くけど、それ以上に嬉しくて堪らない。
『おうよ!俺も夏美ちゃんに会いたいんだ…。』
高尾君は甘く私に囁いてきた。
その一言だけで私の耳と心臓がどうにかなりそうだ。
好きな人に会いたい、なんて言われて舞い上がらない女の子はきっといない。
どうして高尾君は私が言わなくても喜ぶ事をしてくれるんだろう?
更に好きになっちゃうじゃない…。
『おいおい、何黙ってんだよ?俺に痺れちまったか?』
優しく囁いてきたと思ったら、いつものお調子者に戻って私をからかう。
「もう!調子乗り過ぎ!」
彼のペースに乗せられて私はつい恥ずかしさで声を張る。でも高尾君は何も動じず落ち着いてるのがちょっと悔しい。
『はは、じゃあ駅前の公園で待ってるから早く来いよ。また後でな。』
「うん、また後でね。」
電話を切って急いで部屋着から、この前お兄ちゃんに買ってもらった紺のロゴ付きのグレーのパーカーワンピースに着替える。