第9章 WC〜後は天命を待つのみなのだよ〜
ーSide 夏美ー
私は明日の準決勝の為に、偵察で撮ってきた今大会の陽泉のDVDを誰もいないリビングで食い入るように見ていた。
相変わらず陽泉の選手はしっかりと土に根差す大木のように体格のいい大きな選手が揃っており、インサイドの強さはまさにイージス艦の盾そのものだ。
うちには真ちゃんがいるけど、絶対ダブルチームは付くだろうし、インサイドからもリバウンドしたり得点出来なきゃまず勝ち目はないだろうな。
あとウチの得点源はチーム一体となる必要があるあの空中装填式(スカイダイレクト)3Pシュートだ。まだ今年は使ってないけど陽泉相手となれば使わざるを得ない。
去年みたいに赤司君に攻略されなければいいけど…。
紫原君もヤバイけど、あちらにはお兄ちゃんもいる。動きの滑らかさとキレは相変わらずで、しかも去年以上にチームとの連携を積極的に図ってきて死角が見当たらない。
私はお兄ちゃんの動きに癖がないかどうかを見極める為、スロー再生と巻き戻し、一時停止を繰り返す。
けどお兄ちゃんは、一点の曇りもなくバイブル通りの綺麗な動きをしているからどうしても見つけられない。
「…ちょっと、やばすぎでしょ。」
私は見守る事しかできないことを嘆く。明日への不安が募ってしまい、ケータイの電話帳を開く。
もちろん探しているのはただ一人、高尾君だ。ボタンを押し続けて彼のページを見つけて開く。
「本当は電話の方が好きなんだけど、迷惑かな…?」
私はページを開いたまま、画面を見つめて迷っていた。
でも彼のあのおちゃらけた、悩んでるのが馬鹿らしく思えてくる声が今すぐ聞きたくて仕方がなかった…。
いつの間にか彼のケータイの番号を押し、着信ボタンを押す手前で私の指が緊張で一時停止する。
やばい。ボタンを押すだけなのに、こんなに震えて、胸が痛くて堪らないよ…。
暫くそのままをキープする私だけど、胸の痛みに耐えられなくなり、ついに決心して着信ボタンを押すと、右耳にケータイを寄せた。