第9章 WC〜後は天命を待つのみなのだよ〜
夏美ちゃんの壮絶な過去を聞かされて俺は終始驚愕した。でもあんなに美人で運動以外非の打ち所がない彼女がなぜ気取らなくて人に優しいのかよくわかった。
同時に辰也さんと火神をずっと気にしていた事、辰也さんが公園であそこまで怒った事も。
そんな人間不信に陥ったにも関わらず、今は乗り越えようと俺を信じようとしてくれてるのが十分に伝わる。
俺は更に彼女の事が愛しくなって守ってやりたい…。
「そうだったんすね。…わざわざ話してくれてありがとうございます。」
俺はまた深々と頭を下げてお礼を言う。
「人間不信になって、あんなに俺にべったりだった夏美が、沢山の人に出会って支えられて、今は君に向き合おうと信じようとしている…。成長したんだと、嬉しくて堪らないよ。」
「…辰也さん。」
顔を上げて辰也さんを見ると、静かに切なそうに微笑んでいた。
本当は寂しいのか?だけど間違ってたら失礼だから言えないけど。あ、でも真ちゃんだったらお構いなしだけどな。
「…とはいえ、まず俺に勝ったらの話だけどな。」
「え、マジっすか!?今の確実に認めてる流れでしょ!?」
途端に辰也さんが意地悪に微笑みだし、思わず俺は拍子抜けする。
「俺がいつ夏美をやるってはっきり言ったんだい?」
「…はは、一言も言ってないっすね。」
全くその通りなので俺は苦笑いを浮かべる。
くそ。口の回りには自信あるのに負けたぜ〜!同じような顔してんのに、辰也さんは夏美ちゃんと違って手強い…。
「丁度きりがいいし、もう時間だろ?」
確かに時計を見るともう集合時間だ。俺としては言われっぱなしできりが悪いけど、早く行かないと宮地さんにしめられるから解散することにした。
「そっすね!失礼します!…明後日は絶対勝って、夏美ちゃんをゲットしますから!」
「…望むところだよ。」
辰也さんは挑発的な笑みを浮かべて俺を見送った。俺は足早に控え室に戻る。
帰りに夏美ちゃんから焼き増しした今大会の陽泉のDVDを渡されて、次の日俺は食い入るように見ていた。