第9章 WC〜後は天命を待つのみなのだよ〜
正面玄関を出て人気のないところまで移動する。
「…悪いね、こんなとこまで来てもらって。」
「いや、いーすっよ。」
辰也さんは目を俯いて謝る。公園の時と比べると何か雰囲気が柔らかくなってて正直戸惑う。
「夏美から聞いたよ。君の事。相当夏美の事が好きなんだな。」
夏美ちゃん、わざわざ俺の事話してくれたのか?
…超嬉しいんだけど。
照れそうになるけどそれじゃ締まらないから、俺は真剣な眼差しで辰也さんを見つめる。
「もちろんっすよ!もう夏美ちゃん以外考えられないんす!」
「その言葉嘘じゃないな?」
辰也さんは鋭く俺を見据え、棘のある口調になる。
そりゃそうだ、大事な可愛い妹を今取られようとしてるとこだしな。
全く怖くねーって言ったら嘘になるけど、それを跳ね返すくらいの気持ちを伝える自信があるから俺は目を逸らさない。
「はい!色んな事があったけど、やっぱり夏美ちゃんの事が頭から離れなくて、どんどん好きになって、もう俺にはこの子しかいないっていつの間にか思ってたんす!」
俺は一旦一呼吸置く。辰也さんは鋭い目線を崩さない。
「だから、明後日の試合で勝ったら、夏美ちゃんを下さい!!絶対幸せにします!!」
俺はありったけをぶつけて言い切ると、深々と頭を下げる。しばらくそのまま静寂が訪れる。その時間が異様に長く感じてもどかしい。
頼む…!伝わってくれ…!俺にはもうあいつじゃなきゃダメなんだ。
「…顔を上げてくれないか?」
辰也さんに促されて顔を上げ、彼の顔を見上げるとやれやれと言いたげな表情をしていた。
「…まるで結婚するみたいな口振りじゃないか。こっちが恥ずかしいよ。」
いや、あんたの方が臭いセリフバンバン言ってますけど!?
つい口が滑りそうになったけど寸前で我慢して俺は瞬時に心で突っ込む。でもこの人を説得するにはこれぐらい言わないと駄目だと思ったし。
「だけど君の勇気と思いに免じて、夏美の過去を簡単に話すよ。本気で付き合うなら絶対知っておいて欲しいんだ。」
「…!一体何があったんすか!?」
真剣な目に戻す辰也さんに俺も食い入るように耳を傾けた。