第8章 お前ら、人事を尽くすのだよ!
「なーに言ってんの、離れたってお兄ちゃんはずっと私の大切な人だよ。意外とおバカさんなんだから!」
「…夏美。全く、お前って奴は…。」
「へへ。」
お兄ちゃんは抱き締めながら私の顔を見て頭を撫でる。高尾君のはドキドキするけど、お兄ちゃんのは安心するっていうかそれぞれ違う心地良さがある。
前はお兄ちゃんにドキドキして、子供の時なんか結婚したいとさえ思ってたのに。
それで無意識に他の男の子とお兄ちゃんを比べて、結局お兄ちゃんに敵う人はいないし現れないとずっと思ってた。
1度は屈したけど、高尾君だけはそんな私にもう一度向き合ってくれた。
そして私も彼を受け入れて向き合いたいと初めて思った。
きっとこれが人を愛するって事だよね?
「…彼ならあいつのような事にはならないよ。夏美の事を大切に思ってるのは話だけでも伝わるから…。」
お兄ちゃんは優しい囁く。
あいつとは昔のボーイフレンドの事だ。付き合ってた期間は短かったけど。その人がきっかけで男性、いや人間不信に一時期なっていた。
「…うん!でもあれは私も弱みを付け込まれたのもあったからと今思うの。」
目を俯く私にお兄ちゃんは顔を心配そうに覗き込む。
「…何でだい?お前はちっとも悪くないだろ?」
「ううん。付き合い始めた時はお兄ちゃんと喧嘩ばっかりしてたじゃない?あいつは表面的にお兄ちゃんと似てる部分があったから、無意識に重ねてたの。」
主に喧嘩してたのは大我やバスケの事だ。その頃のお兄ちゃんは大我を超えたいが為に鬼神の如く練習に励んでいた。
けど、お兄ちゃんが苦しそうで見ていられなかったからつい口を出していた。
「…そうだな。俺も余裕がなくてお前を追い詰めてたな。…本当に、すまない。」
苦虫を噛んだような顔をするお兄ちゃんに私は微笑みを向ける。
「もういいの。だからこそ今の私があるんだし。それに前を向いて歩きたい…!」
「…夏美。本当に大人になったな。今のお前はとても魅力的だよ。」
お兄ちゃんは優しく微笑んで囁いてくれる。
「本当?照れるー!ありがとう、お兄ちゃん…。」
最高の褒め言葉を貰い、私はお兄ちゃんの胸元に顔を擦り付ける。
高尾君。もしお兄ちゃんに負けても私は貴方と一緒にいたい。貴方となら乗り越えていける自信があるよ。