第8章 お前ら、人事を尽くすのだよ!
お兄ちゃんは私のベッドに腰掛けて隣に座る。
「お兄ちゃんから入って来るなんて珍しいね!」
「そうだな、いつもお前から入ってくる事が多いもんな。」
「え、そうだっけ?」
私は頭をかきながら誤魔化し笑いをする。
言われるとそうかも…。年頃になっても結構お邪魔してた気がする。お兄ちゃんも拒否しないもんだから気にせず入ってたなぁ。今思うとちょっと恥ずかしい。
「…それにしても、雰囲気変わったな。何かあっただろ?」
微笑みながら顔を覗き込むお兄ちゃん。
何で私の周りには鋭い人達が多いんだろうと不思議に思う。それに丁度いいし、ハッキリと伝える決心がついた。
「うん。お兄ちゃん、私ね、高尾君の事が、大好きなの…。」
お兄ちゃんは目を見開き驚いている。そりゃずっとお兄ちゃん大好きとか、離れたくないって言ってたから当然かな。
そして私はシンガポールで起こった事を順を追って話す。
「…彼は相当夏美の事が好きなんだな。全く、公園の時もそうだったけど結構やるね、高尾君。」
「お兄ちゃんがそこまで言うなんて…。」
お兄ちゃんに微笑みながら言われて、なんか嬉しいような恥ずかしいようなで思わず両頬に手を当てる。
「…だからと言って手は抜かないからな。」
挑発的な態度を取り笑みを浮かべるお兄ちゃん。私も負け時と同じように挑発する。
「そんな事は百も承知だよ!高尾君だって…本気のお兄ちゃんに勝ちたいと思う!…それに。」
「それに?」
「私も、高尾君には、本気のお兄ちゃんに勝ってほしい…!」
私はお兄ちゃんの目をしっかりと見つめると、お兄ちゃんは驚いた後に何とも寂しそうな顔をして私を抱き締めた。
「…お兄ちゃん?」
「…夏美からそんな事言われる日がこんなに早いなんてな。いつも俺にベッタリだったお前が、手元を離れていくのが寂しいんだ…。」
切なそう声で言うお兄ちゃん。いつも頼りになるお兄ちゃんがまるで弟みたいで可愛い。だから玄関でも寂しそうだったのかな?
私は抱きしめ返して優しい声で言い聞かせる。