第8章 お前ら、人事を尽くすのだよ!
夏美ちゃんは俺の腕の中でそのまま俺を見つめて黙っている。俺は先程とは打って変わって真面目な眼差しと口調になる。
「…俺さ、去年辰也さんに宣言しただろ?絶対超えてみせるって。」
「うん。」
「…本当はこの前一緒に帰った時に告ろうと思ってたけど、色んなことが起きすぎてつい忘れてたんだ。」
「えっと、それって、どういうこと?」
戸惑ってキョトンとしている夏美ちゃんの両肩を掴みながら宣言した。
「今年のWCで陽泉に当たって勝つか、優勝するかしたらもう一度お前に告白する。」
本当は今すぐ付き合って早く俺のものにしたい。けどそれじゃ納得できないんだ。
「…!高尾君、どうして、そこまで…?」
「そ、そんな事しなくても私は高尾君がす」「だめだぜ、そっから先は言わせねーよ。俺から、言わせてくれ。」
元々大きい目を見開いて慌てる夏美ちゃんの口を俺は一旦掌で塞ぎ、黙るとすぐに放した。
そりゃ言われるのは嬉しいぜ。だけど自分の好きな子にはやっぱり男から言わねーとな。示しがつかねーし。
「…真理子の事もあったし、WCで勝って俺への信頼をもっと強くしたいんだ。それに、俺は辰也さんを超えてからお前と付き合いたい。だから、それまで待っててくれないか?」
夏美ちゃんの顔を見ると涙をポロポロと零していた。こりゃ、感動してもらえたか?
「…高尾君。そこまでしなくても本当にいいのに。でも凄い嬉しい…。わかった!絶対勝とうね!!」
涙を拭うと夏美ちゃんはとびっきりの笑顔を向けてくれる。俺はまた強く抱き締めて彼女に耳打ちをする。
「ああ。辰也さんよりも惚れ惚れするようなプレー見せてやっからな。覚悟しとけよ?」
「っ!!」
夏美ちゃんは声を我慢して体を震えさせた。本当に耳弱いな。つい顔を見たくて腕の力を緩めると何かを訴えたそうだった。
「どうした?」
「…約束ね!指切りげんまん!」
「おうよ!」
言われた通りに指切りげんまんをすると、お互いに笑い合う。
「ショー殆ど見ずに終わちゃったね。」
「また今度来ればいいっしょ!もう消灯時間だし戻ろっか。」
「うん、そうだね!」
俺は夏美ちゃんの肩を抱き寄せて途中まで送り、そこで別れた。