第8章 お前ら、人事を尽くすのだよ!
ーSide 高尾ー
時間を過ぎても中々来ない夏美ちゃんが心配になって、俺は電話をかけるけど出てくれない。
まさか、ここに来てドタキャンとかねーよな?…待つしかねーし、きっと何かあったんだよな?
ライトアップでロマンチックに彩られたマリーナサンベイズとは対照的に不安な気持ちが俺を襲う。
仕方なく壁に寄りかかって待っていると、待ち望んでいた愛しいあの子の声が聞こえて一気に舞い上がる。
「…高尾君!ごめんね、待たせちゃって!!」
「夏美ちゃん!待ってたぜ!長風呂?」
俺は頭を撫でて冗談を言うと、いつもはムキになるのに何故か夏美ちゃんの目が泳いでいた。
「…まあ、そんなとこ!」
この様子じゃ絶対、何かあったろ?
嘘付くの下手だよな、本当…。ま、そんな所が好きなんだけどね。
「誰かに呼び出された?」
「…違うよ。」
じゃあ、思い付くのはあと一つだ。
俺は軽い口調から一気に真面目で低い口調になる。
「…真理子だろ?」
「…うん。」
夏美ちゃんは頷いてそのまま目を俯く。多分この様子だとばらされたな。真理子を恨むけど、自分で蒔いた種だ。認めるしかねー。
「…あいつから言われただろ?俺がしてきたこと。」
「…うん。でも、私」「本当にごめん!!」
「高尾君…。」
何か言いかけた夏美ちゃんを他所に、俺は彼女の顔を見るのが怖くて先に深々と頭を下げて謝った。
「…全部本当なんだ!お前に嫌われたくなくて、言えなかった…!本当に、本当にごめん…!」
思わず泣きそうになって声と体が震える俺に、次の瞬間予想外な事が起こって目が点になる。
何と夏美ちゃんが俺の首に手を回し、頭を下げる俺を抱き締めてくれた。
「…夏美…ちゃん?」
「…もういいんだよ、高尾君。泣かないで。」
頭を包み込まれてるような状態だから、風呂上がりの夏美ちゃんの匂いとまるで母親のような優しい声に脳天が刺激される。しかも胸も顔に近くて俺は内心慌てている。
マジ、夏美ちゃんそれはずりぃっしょ。もっと好きになっちまうだろ?