第8章 お前ら、人事を尽くすのだよ!
「あら、夏美じゃない?こんな時間にどうしたの?」
真理子ちゃんは不敵な笑みを何故か浮かべているから、少々不気味だった。
「…待ち合わせがあって。」
一応濁したけど多分真理子ちゃんは察してしまうだろう。
「…和成に呼び出されたんでしょ?隠したって無駄よ。」
真理子ちゃんは私の顔をジロジロと覗き込む。カラオケ以来喋ってないから、更に怖くて堪らない。宮地先輩に一喝された時とは違う怖さを感じる。
私は頷くと真理子ちゃんはそのまま不敵な笑みを浮かべたまま、囁いてきた。
「…ねぇ、何で和成はカラオケの時あたしを呼び出したんだと思う?」
確かに決着を付ける為と高尾君は言ってたけど、真理子ちゃんからは中学で別れたと聞いてたから、どうも引っかかっていた。
何だろう、物凄く嫌な予感がする…。
「ふふ、知らないみたいね。ま、あいつも流石に言いたくないか。やっと手に入りそうになったってのに、あんたに知られたら終わりだもんね。」
黙って聞いている私に真理子ちゃんは耳打ちをしてきた。
「…あたしと和成は別れた後も関係を持ってたのよ。あんたが来るまでね。」
「う、嘘…でしょ…?」
当然の如く動揺し、勢いよく私は目を見開く。真理子ちゃんは続けて悪魔のように囁いてきた。
「つまり、あんたが来てからあたしは用済みになって捨てたヒドい男なのよ。もし付き合っても、いつかあたしみたいに捨てられるかもね。和成モテるから選り取り見取りだし。」
「…う、嘘よ!高尾君はそんな人じゃない!!」
虚勢を張る私だけど、捨てられるという一言が思考を停止させるのに十分すぎる言葉だった。
足が震える私に構わず、今迄で一番の追い打ちを掛けてきた。
「…そんな男を、お兄さんにずうっと大事に、甘やかされてきた初心なあんたは信じられる?」
「…!」
正直痛い所を突かれて私は言葉が出てこなくて固まってしまう。その時部屋着のズボンのポケットに入れてた携帯がぶるぶる震え出す。
多分、高尾君からだ。どうしよう…。
戸惑う私に時間は何の猶予もなく待ってはくれない。ここで自分で答えを出さなきゃいけないのは嫌でもわかっている。
そうしてようやく出た答えはただ一つだ。
ここで終わらせたくない…!決めたじゃない、私。どんな事があっても高尾君を信じるって。