第8章 お前ら、人事を尽くすのだよ!
いつもの長くてキツイ練習がようやく終わり、いつもの用事や片付けをさっさとこなす。またあの2人はいつも通り残って練習するだろうから、体育館の鍵を渡しに行く。
だけど、高尾君の側に近づく度に私の胸の鼓動が止まらなくて、苦しくなる。
何やってんの、私!鍵渡しに行くだけでしょ!?ぽんと渡して終わりでしよ!
そうやって言い聞かせても胸のドキドキは止まってくれないし、手汗もいつの間にかかいている。私は目を俯いて歩いてると、いつの間にか誰かの背中に当たってしまう。
「…!ごめんなさい!」
「おっと、わりい!って、夏美ちゃん…。」
「…高尾君。」
高尾君は振り向いて、お互い顔を認識すると無言で見つめあってしまう。この時がもどかしくて、顔が沸騰するくらい熱くて、口も手足も全く動かない。
そんな中先に静寂を破ったのは高尾君だった。
「…鍵っしょ?」
「…うん。後はよろしくね。」
私は高尾君の手のひらに鍵をぽんと置くと、高尾君が鍵だけじゃなくて私の手ごと握り締める。
もう私は顔をさらに赤面させ目線が定まらないほど平静を保てなくなる。
「…ど、ど、どうしたの…?」
「夏美ちゃん。後で話したい事があんだけど。」
「え?」
話したい事って何?…まさか、真理子ちゃんとヨリを戻したとか…?そんなの、イヤ!!で、でも、ほ、他にあるかな、私に話って…?
私は高尾君の顔を見たくなくてずっと目を俯いていた。
やっぱり真理子ちゃんとキスした事がどうしても引っかかり高尾君からどんな話を振られるのか自信がない。
結局私は目線をそのまま下にして申し訳なさそうに断った。
「…ごめんね、今日は優ちゃん達と約束してるからまた今度でもいいかな?」
「…そっか、わかった。じゃあ、お疲れさん。」
顔を見てないけど、高尾君の声色は切なげでとても悲しそうだった。いや、私がそう思いたいだけかもしんないけど。
高尾君と真ちゃんと別れて私はドア前にいる優ちゃん達の元へさっさと行った。